第1回 消えていく音にこそ
ギターは、多くの弦楽器の中でも特に繊細な楽器であると言われています。
確かに、その音色や響きの美しさと透明感という点において他の追随を許さないが、音の持続性という点において極めて悩み深い立場に置かれている。
このことは、ギターの持つ弱点であり、宿命のようなものである。
しかし、考えてみれば、この弱点とも思える「消えていく音」の残り香にこそギターの最もすぐれた特性が潜んでいるのではないかと思うようになった。
どんなに美しく至福の音色であろうとも、サウンドホールから飛び出した瞬間からそれらは消えゆく運命にある。その短い命に演奏者はどこまで思いを込められるのだろう。そう思うとき、ただやみくもに音を頑張らせるのではなく、「消えていく音」にこそ細心の注意を払い、十分に耳を傾けていかなければならないことに気づかされる。
もちろん、音を立ち上げていく時の表現に対する緊張感(呼吸)とタッチに対する問題は、依然として私の最大の関心事の一つであるが、「消えていく音」に対する思いもまた終わる事のない関心事になりそうである。
日頃のギター練習も、一音一音に気持ちを集中させ、音楽を楽しむものにしていきたい。
2014.10.01
吉本光男