第10回 晴れのち後 目をつむれ!

 

 真夜中の練習は時間の流れが曖昧になり、時の刻みが止まってしまったようなし~んと不思議な気分にさせられることがある。

いつものようにバッハのリュート組曲を弾いていた時のことだ。眠いわけではないが自然に目を閉じたままギターを弾いている自分がいた。真夜中のしんとした空気を震わせながら聴こえてくるバッハの曲に、自分が弾いていることも忘れて心地良い時間が過ぎてゆく。全てを夢見心地の中で弾ききった時「おや!?」

という奇妙な感情に包まれた。

 

 目を閉じていたにもかかわらず弾いている間中、左手運指が高速ダイヤグラムの点滅のよ

うに鮮やかに脳裏に浮かび上がってきていたことに気がついたのだ。弦を押さえた瞬間の指の動きが、目をつむると一つ一つ確実に「はっきりとミエテイタ」のだ。目を開けて左指を追うと、速さに流されてしまう指の動きが、目をつむると一つ一つ確実に「ミエテイタ」ことに気づかされたのだ。

今度は意識して目をつむり、自分の脳裏に浮かぶ映像を注意深く探りながら弾いてみる。ゆっくり、そしてだんだん速く。ゆっくり、だんだん速く。どんなに速く弾いても、左指の押さえの一コマ一コマが鮮やかに刻まれていく。脳の働きの凄さにただ圧倒される自分がいた。しかも、目をつむると、自分の出す「音」が実によく聴こえてくる。そのことは、サウンドホールから飛び出すどんな小さな音の輝きをも最後の最後まで慈しもうとする心の動きに繋がった。演奏が変わってくるのは当然だ。もちろん、自分の出す音が心に届いて聴こえるという超豪華な「おまけ」がついてくる。

 

 この奏法については、今後まだまだ、客観的な検証は必要である。だが確信を持って言えることがある。

指の動きを脳裏で視る訓練をすることで、演奏は確実に上達する。

その為には、まずしっかりと目を開け毎日の基本練習に励む心が必要だ。音符貯金をすることで暗譜を進めよう。その後に、目をつむって弾ける状態にしていくことが肝要である。まずは、短い曲や、ワンフレーズの暗譜で試してみるのも良い方法だ。今のところ、この奏法を自分が目指すところと決めて日夜練習に励んでいる。「継続心こそが力である」と先月号でも書いたが、今月も力強く書かせていただきたい。

継続心こそが力である。

これから夏に向かう中にあって、ギターには厳しい季節になってくる。それでも自分なりの目標を持って練習すれば成果もまた確実にみえてくるようになる。楽しく日々の練習に邁進しよう。そして、気づきがあったら、是非、皆の宝となるよう公開していただければ幸いである。

                                  2015.07.01

                                      吉本光男