第7回  暗譜プロセス考

 

 今月は暗譜のプロセスについて考えてみましょう。

暗譜とは、譜を自分の中に記憶させること。つまりある曲を繰り返し練習し、練習することによって、筋肉の知覚と音楽の聴覚の双方で記憶することです。

短時間の少ない情報なら、それで充分記憶とその再現は正確となるでしょう。

が、10分、それ以上の曲を数曲となると、それは不可能ではないまでもその再現には不安が付きまとうものです。

 

   ある有名なヴァイオリニストが、独奏中にふと目の前が真っ暗になり、それから先のパッセージが全く思い浮かばなくなったとか、同じ音型の繰り返しからど

うしても先へ進めなくなったというコワイ話を聞いたことがあります。これらのことを防ぐために、私自身が心掛けている練習法は、2つ。

それは、指の知覚のみに頼らないで、眼で楽譜を読むことによって記憶の糸を確かなものにしていくことと、ゆっくり音を聴きながら弾くことです。弾ける曲など、つい楽譜を見ないで指使いのスピード感に満足してしまいがちですが、これでは不安は解消されません。

ピアニストのギーゼキング(イエペスも彼の奏法を参考にしている)はコンサート前に速いテンポで弾くことは、小さな”ほころび”をどんどん大きくすることだと言っています。また超絶的テクニックで知られる、あるヴァイオリニストは毎朝2時間ほどある曲を3倍か4倍くらいの遅いテンポで、何回も何回も弾くのだということを聞いたことがあります。

 

   どんなにうまく弾いても、小さな小さなキズは人間が弾く限りその曲のどこかにあるはずです。そしてその”ほころび”は大きくなって、、、、という先のギーゼキングの話は、超スローの練習によって防ぐことが出来るのだと思います。

これから、ギターの練習にとっては良い季節になってきました。皆さんも大いにギターをお楽しみください。

                                                     2015.04.01

                                                     吉本光男