第9回 魅惑のトレモロ
第9回 魅惑のトレモロ
「アルハンブラの思い出」はギターを弾く人なら知らない人はいないというくらい有名である。
そしてアルハンブラ宮殿の噴水をイメージして作られたといわれる「トレモロ」 奏法の難解さもまた演奏を試みる者にとっては、周知の事実である。、
若いころから、世界唯一、故A.セゴビアの演奏にみられるような「プルプルと震える噴水のようなトレモロ」を何とか自分のものにしたいと夢のように熱望してきた。セゴビアも人間、私も人間、同じ人間であるならできないはずはないという論法である。時には心が折れてしまいそうなことも経験しながら、時々の練習のなかで飽きもせず試行錯誤を続けていた。
昨月のことだ。それは突然にやってきた。七転び八起という言葉がぴったりの心境と共に超難解と感じていた「プルプルと震える噴水のようなトレモロ」奏法へのひらめきが、真夜中の練習中に浮かんできたのである。発想のひらめきに導かれるように右手の指が動いていく。何度も、何度も繰り返すうちに、右手が繰り出すトレモロが朝露のように転がっていく。「そうだったのか!」心が喜びに震えた。いきなり美しくプルプルと揺らぐこの「魅惑のトレモロ」奏法に確信の様なものを感じながら、奏法の確立をめざし今も練習を続けている。
12月のクリスマス・コンサート会場で、この「プルプルと震える魅惑のトレモロ」を公開できる日が待ち遠しいと感じている自分にすこし驚いている。
今の段階で、私的にはっきり言えることがある。
「トレモロはスピードではない。32音符を細切れにきっちり速く弾いても綺麗さはあるが、名曲アルハンブラの雰囲気は漂わない。
音を均等に速く刻んでいく、というイメージから脱することで、スピードではない感覚が生まれた。この奏法の良さは、どんな時もいきなり玉のようにプルプルと震える「理想のトレモロ」が現れるということだ。強さも速さも自由にコントロールできるこの奏法が自分のものとして定着すれば、アルハンブラを今よりも
っと豊かに表現できるだろう。考えただけでわくわくしてくる。継続心こそが力である。
2015.06.01
吉本光男